毎日宿題で音読を出しているのですが、意味はあるのでしょうか。それよりももっと、問題を解かせたり、暗記をさせた方が学力があがると思うのですが…。
なるほどですね。問題を解かせたり、暗記や暗唱をするというのも、大事な学習です。でも、同じように音読も大事ですよ。
それでは、音読はどのような効果があるんでしょうか。文を読むということに関しては、黙読でもよいような気がするのですが…。
確かにそうですね。黙読と音読は同じようなことをしているようですが、昔からのの教育の考え方や脳科学の研究の図解をみてみると見方がすこし変わるかもしれません。解説しますね。
今回は、「音読の効果」についてです。
子ども達は、計算の宿題などは喜んでします。
しかし、音読に関しては、「めんどくさい。」「意味あるのかな。」なんて言うことがあります。
みなさんも、子どもの頃、一度は思ったことがあるのではないでしょうか。
実は、この音読、とても意味があることなんです。
音読が十分にされていないお子様がいるご家庭や、この本文を読んで音読の効果がわかってもらえたら嬉しいです。
それでは解説します。
音読の脳への効果
先日、次のようなツイートをしました。
図をご覧になってわかる通り、音読をしているときや、計算をしているときが、最も脳が活性化されています。
これは、音読という行為自体、「目で文字を追う」「呼吸を考える」「意味や読み方を考える」「自分の声を聴く」「声に出して発声する」など複数の行動の命令を体に送っているからだと考えられます。
一方、ゲームをしているときや予定を考えているとき、脳はあまり活性化されていません。これは、使っている脳の領域が少ないからだと考えられます。これは、意外ですよね。いろいろ考えているつもりではいるのですが、実は脳の活性化には至っていません。
このように、学習の基本となる、音読や単純な計算。つまり、「読み・書き・計算」は脳をもっとも活性化させていると考えられます。
口だけで言っても伝わらないので、子ども達にこの図を見させてください。
脳の活性化の効果
脳が活性化されているとどのような良いことが起こるのでしょうか。それは、脳血流が多くなるということです。
脳血流が多くなると、以下の効果があります。
判断が早くなる
脳血流が多くなると、たくさんの脳が活動するようになり、複数の情報の同時処理が得意になってきます。運動するときには、あらゆる情報を処理して、行動します。
会話をするときは、顔の表情や声の大きさ、相手の反応など様々な情報を処理しながら行動していかなかればなりません。
情報を処理して良い判断をするために役立てるようになります。
認知力
ものごとを認知する力がよくくなります。これは、脳の後頭葉というところが活性化されていることでわかります。
後頭葉は、ものごとを認知する場所になります。特に、視覚情報の処理を主としていますので、目から入ってくる情報を素早く処理することは、後頭葉にかかっていると言えます。
記憶力向上
ものごとを記憶する力が付きます。これは、脳の前頭葉というところが活性化さえれていることでわかります。認知力が高まると似ていますが、少し違います。
前頭葉は、人間の思考や理性をコントロールしています。また、言葉を話したり、体を動かしたりする機能も担っています。人が人であるために最も関与している部分といえるでしょう。
幸せになる
幸せになります。
もう少し正確に言うと、幸せになるというより、幸せと感じやすくなります。
脳血流が多くなると、セロトニンという幸せを感じるホルモンの内の一つが出やすくなります。
セロトニンとは、青い空や広い海などをみるときに気もちの良いと感じるときに出てくるホルモンです。
セロトニンが出ているときは、物事を前向きにとらえられやすく、疲れを感じにくくなるそうです。
逆に言うと、脳の血流が悪くなると、物事をマイナスに捉えてしまう傾向が出てくるとも言えます。
また、達成感を感じたときに出るドーパミンと、愛情を感じたときに出るオキシトシンと共に知っておくと良いですね。今回はテーマではないので、割愛します。
音読の歴史
実は、ご存知の方も多いと思われますが、この「読み・書き・計算」は、日本では古くからずっと続けてきました。
日本が明治時代に大きく成長した理由は、江戸時代の末期から寺子屋でされた寺子屋の指導「読み・書き・そろばん」があったからです。
文科省のホームページには、次のように載せられています。
江戸時代の武家は、近世社会の支配者であり、また指導者としての地位を保っていたのであり、したがって、それにふさわしい文武の教養をつむべきものと考えられていた。そのために設けられた教育機関が「藩校」であった。他方庶民は日常生活に必要な教養を求めた。
そのために、「読み」・「書き」を主とする簡易な教育機関として「寺子屋」が成立している。藩校と寺子屋は江戸時代後期、特に幕末にかけて著しい発達を見た。
そして、近代の学校の主要な母体となったのである。このように武家の学校(藩校)と庶民の学校(寺子屋)が別個に設けられ、二系統の学校が併立して、それぞれ独自の発達を示したところに近代と異なる近世の教育の特質が認められる。
しかし、江戸時代にはその他の教育施設も発達し、また幕末にはそれぞれの教育の近代化が進められていた。
そして、武家の教育と庶民の教育がしだいに接近し、両者の融合化も行なわれて、近代の教育へと近づいているのである。
文科省HP「幕末期の教育」
古来から音読というのは、重宝されている教育方法ですので、数値にならない実践的な裏付けがあったと考えられます。
実際に、明治や大正時代の教科書の指導者には、何度も通読させ、覚えられまで読ませていたという記述もありました。
そのくらい、音読というのは、教育的な手法として、大事にされてきたことがわかります。
学校での音読
効果的に学級で音読させるにはどうしたら良いでしょうか。音読の指導方法については、以下のように載せられています。(文科省ホームページ)
1 繰り返し音読させるために、マンネリにならないように留意する。
2 その都度、内容面・技能面から目標を設定する。
3 方法や形態に変化をつける。
文科省HP参照
方法や形態は、次のように載っています。
ア 一斉読み ‐全員で声を揃えて読む。斉読(せいどく)。小1から中3まで必要であり、有効である。
イ 円陣読み ‐円陣を組んで読む。人数の少ないクラス、おとなしい子ばかりで声の出ないクラスに有効。円の中央で声がハモり、協同して何かを作っている快感を味わえる。
ウ 共(とも)読み ‐教師と子ども達が共に(一緒に)に読む。いわば伴走。語句の読み・アクセント・速さ・抑揚(よくよう)・間(ま)を教えるのに有効。「指導案集」では、新しい教材に入ったとき必ず行うようにしている。「毎日読みましょう」「なん回読んできなさい」という宿題を出すにはこれをしておくことが前提となる。
エ 追いかけ読み ‐教師が一文、または、一節を区切って読み、子ども達がそれに倣(なら)って読む。
オ 一文読み ‐一人一文のリレー読み。長い文と短い文があるが、リレーの継ぎ目のところに段差ができないようにすること。それを目指して練習すること自体が集中した読みを誘う。
カ 段落読み ‐一人一段落のリレー読み。
キ 分担読み ‐全文をクラス全員が分担して読む。
ク 役割読み ‐物語・小説で行う。会話文と地の文、また、登場人物を担当して読む。日本語力の差、声の高さや話し方の速さ等に配慮して適所を各人に割り振ることによって、誰にも成就感を味あわせることができる。
ケ 拡大語(かくだいご)読み ‐‐‐ 重要な語・フレーズ・文を、声量をあげて読む。説明的文章(説明文・意見文・論説文・評論文)の要旨をつかんだり確認したりするのに有効。
コ 速(はや)読み ‐できるだけ速く読む。文脈を大づかみするのに効果がある。できるだけ息継ぎを我慢させるようにすると、苦しくなったとき自然と息を腹に入れようとすることになり、腹式呼吸を覚える。
サ 唇(くちびる)読み ‐唇だけを動かして読む。黙読では、難しい語を飛ばして読んだり、誤読に気づかなかったりする。ほとんど聞こえないくらいの声量だが、唇を動かすことでそれらが防げる。ほかの人が読むのを聞いているときは、これをさせる。
シ 微音(びおん)読み ‐唇読みよりも少し大きい声。声を出すのを避けたがる子どもにも抵抗感が少ない。
ス 指さし読み ‐教師がいま読んでいるところに人差し指を当てて読む。小1の1学期、および、日本語力の低い子どもに有効。
1番初めに挙げられているように、「マンネリ化」しないようにすることが必要です。
「マンネリ化」とは、ずっと同じ音読をすることで、「これなんのために読んでいるのだろうな。」「読むのって面倒くさいな。」という思考が生まれる状態のことです。
これは読む力を育てるうえで一番大事な意欲を欠けさせてしまいます。
次に、目的意識を持たせることです。低学年では、音読自体が楽しいと思ってくれるので、様々な読み方を使って楽しむことができるのですが、中学年、高学年は、ある程度目的が必要です。
- ・全校朝会で音読発表をしよう。
- ・次の参観の授業前に音読を発表しよう。
など、簡単な目標が必要です。そのために、場や相手、内容によって音読の仕方をかえていかなければなりませんので、その方法を話し合わせることで、意欲が生まれます。
まんねり化しないようにすることがポイントのようですね。全員で読むよりも、句読点の〇が来たら交代する〇読みの方が、緊張感があって良いかもしれません。
家庭教育において
家庭教育については、まずは親が積極的に読みかせをするとよいです。
そうすると、読み方のポイントが子ども達にもわかってきます。
幼児期は自身から読むようになり、児童期初期(小学校低学年)ではすらすら読めるようになるのが理想的です。
高学年でも、音読は前述の通り効果があるので実態によっては続けていきたいですね。音読に抵抗があるならば、無理はさせる必要はないとは思います。
宿題でさせている家庭は、ただサインをするだけではなくて、家事をしながらでも良いのでしっかり聞きましょう。
大抵の子どもは読み飛ばします。それを見逃さず、毎日音読をさせることで、子どもの脳は活性化されます。
高学年になって、音読をやめがちなお子様は、上の図を見させましょう。目に見える実感は無くても、確実に脳の働きは向上していると考えられます。
まとめ
今回は、音読の効果でした。
音読は昔から大切にされており、現在は科学的に脳を活性化させる重要な教育活動として認識されています。
お茶の水大学の名誉教授藤原正彦先生がおっしゃられている通り、読書さえできれば学校なんて行かなくても大丈夫です。その読書をするスキルを育むうえで音読は大事です。
さらに、脳科学的にも音読は、脳血流を増加させ、思考力をあげるためにも、大事です。子どもが音読をする習慣を幼少期から養っていきたいですね。
子どもはもちろん、大人も音読してみて、脳の働きを活性化し、思考力の向上に役立てられると良いですね。それではま。